現場で誰よりも成果を出していた人を課長に上げたら、なぜか元気がなくなった。会議での発言が減り、以前のような切れ味がなくなる。中小企業の組織づくりに関わっていると、この場面に何度も出会います。
そして多くの場合、経営者はこう考えます。「本人の意識が足りない」「もっと頑張ってもらわないと」。ただ、私の見てきた範囲では、原因が本人の努力不足であることはほとんどありません。ずれているのは、能力ではなく役割のほうです。
同じ会社にいても、得意なことは人によって違う
一つの会社の中を見渡すと、社員の得意なことは驚くほどバラバラです。
- 新しいアイデアを考えるのが得意な人
- 人と人をつなぐのが得意な人
- 数字を分析するのが得意な人
- 決めたことをコツコツ形にするのが得意な人
ところが会社の仕組みは、全員に同じやり方を求めがちです。同じ手順、同じ報告の仕方、同じ成果の出し方。すると、本当は力のある人が「自分は仕事ができない」と思い込んでしまうことがあります。もったいない話です。
サッカーで言えば、ゴールキーパーが得意な人に「今日からフォワードで点を取ってください」と言い続けているようなものです。本人が悪いのではなく、強みと役割が合っていないだけ、ということがあります。
昇進で変わるのは、能力ではなく「見る景色」
もう一つ、役割が変わるときに起きていることがあります。見なければいけない範囲が変わる、ということです。
現場の仕事を中心に見ている段階、チーム全体を見る段階、会社全体を見る段階、その先の取引先や地域まで見る段階。上がるにつれて、判断に使う情報も、成果が出るまでの時間も変わります。現場では今日の結果が出ますが、組織づくりは半年後にしか結果が出ません。
現場で優秀だった人ほど、この時間差に苦しみます。昨日まで手を動かせば結果が出ていたのに、今は動いても手応えがない。能力が落ちたわけではなく、見る景色が変わっただけです。ここを本人と会社の双方が理解していないと、優秀な人ほど自信をなくしていきます。
「もっと頑張れ」では埋まらない
強みと役割がずれているとき、「もっと頑張れ」は効きません。頑張る方向が間違っているからです。むしろ、頑張るほど本人は消耗し、周囲は「あの人は変わってしまった」と感じます。
必要なのは、頑張りの量を増やすことではなく、次の2つを会社の側が言葉にすることです。一つは、その人の強みが何の方向にあるのか。もう一つは、今どの範囲を見る役割にいて、次にどこを目指すのか。この2つがはっきりすると、本人は「何を伸ばせばいいか」が分かります。
私はこの確認に、ウェルスダイナミクスという適性を見るツールを使うことがあります。ただ、大事なのは診断そのものではありません。「あなたは○○タイプです」で終わってしまうなら、占いと変わらないからです。診断はあくまで、本人と上司が同じ言葉で現在地を確認するための材料にすぎません。
評価制度は、できていない人を探す道具ではない
ここは人事評価制度の設計にも直結します。評価表を「できていない項目を特定するチェックリスト」として作ると、強みと役割のずれは絶対に見つかりません。全員が同じ項目で減点されるだけだからです。
評価制度に入れておきたいのは、その人が何で会社に貢献しているかを言葉にする欄です。そして等級を上げるときには、「成績が良かったから上げる」ではなく「次の範囲を見る準備ができているか」で判断する。この2つを入れておくと、昇進させた途端に人が潰れる事故が減ります。
経営者が「この人は自分と違う」と言えるか
最後に、これは社員の話であると同時に、経営者自身の話でもあります。
社長が自分と同じやり方をする人を評価してしまうと、会社には社長の劣化コピーしか残りません。「この人は自分と違う。でも、だからこそ必要だ」と言えるかどうかで、組織の幅が決まります。次の世代に会社を渡すことを考えるなら、なおさらです。
苦手を克服し続けなければ評価されない会社ではなく、それぞれの強みを持ち寄って成果が出る会社。そのほうが人は辞めませんし、経営者自身も楽になります。

