経営計画をつくるとき、多くの会社が「今の自社に何ができるか」から考え始めます。手元の人員、設備、資金。そこから積み上げていくと、計画は現実的にはなりますが、たいてい今年の延長線上に着地します。
先日、経営実践研究会の未来創造企業認定研修で、小樽商科大学大学院商学研究科の泉先生によるサステナビリティ経営の講義を受けました。そこで扱われたのが、順番を逆にする考え方です。
社会に良いことと、利益を出すことは別ではない
最初に整理しておきたいのが、この点です。
企業である以上、利益を出して社員に給与を払い、取引先に支払い、税金を納めることが前提です。これができない会社は、どれだけ立派なことを掲げても続きません。社会貢献を理由に赤字を許容する話ではありません。
そのうえで、自分たちの本業を使ってどんな社会課題を解決できるのかを考える。本業と切り離した寄付や活動ではなく、本業そのもので解決する。社会的価値と経済的価値を両立させるとは、そういう意味です。
両立している事業は強い。理由は単純で、続けられるからです。利益が出ているから継続でき、社会に必要とされているから顧客が離れない。どちらか一方だけの事業より、構造として安定します。
「今できること」から考えると、視野が狭くなる
研修で印象的だったのは、考える順番でした。
普段の経営では、どうしても今の会社で何ができるかから考えます。人が足りない、資金に限りがある、設備がない。制約から入るので、出てくる答えも制約の範囲に収まります。
研修では逆でした。何を成し遂げたいのかを先に決める。そこから、必要な人、会社、技術、資金を考える。この順番にすると、一気に視野が広がります。自社にないものは、外から持ってくればよいという発想になるからです。
今できることから積み上げる計画では、他社との協業も、新しい技術の導入も、選択肢に入りません。すでに持っているものの中でしか考えないので当然です。一方、目的から逆算すると、足りないものが具体的に見えます。足りないものが分かれば、誰と組むべきかも決まります。
日本一と世界一を調べてみる
研修の中で面白かったのが、自分が取り組みたい分野について、日本一の企業はどこか、世界一ではどこまでやっているのかを調べる時間でした。
これは背伸びをするための作業ではありません。同業他社の中だけで自社を見ていると、比較の基準が近すぎて、どこまで行けるのかが分からなくなります。世界の水準を知って初めて、今いる位置と、目指せる位置の距離が測れます。
調べてみると、たいていは想像より先まで行っている会社が見つかります。そこで落ち込むのではなく、そこまでの道筋を分解する。何が違うのか、どの順番で積み上げたのか。これが自社の計画の材料になります。
黒字廃業は、経営課題であり社会課題でもある
この考え方は、私自身が取り組んでいることにも直結します。
利益が出ているにもかかわらず、後継者がいないという理由で会社を畳んでしまう。いわゆる黒字廃業です。会社がなくなれば、そこで働いていた人の雇用も、取引先との関係も、地域に蓄積された技術や信用も失われます。
これは経営者一人の問題として語られがちですが、実際には地域全体の問題です。そして、本業で解決できる課題でもあります。数字と人を整えて、良い会社を次の世代へつなぐ。これが自分の本業でできる社会課題の解決だと考えています。
単に会社の数字を良くするだけでは、そこまで届きません。数字が良くなっても、渡せる形になっていなければ会社は終わります。
完成してから動くのではなく、描いてから動く
未来から逆算する計画には、ひとつ心配な点があります。今すぐには実現できないことを書くことになるので、絵に描いた餅にならないかという不安です。
ここは順番の問題だと思っています。完成してから動くのではなく、まず未来を描いて、そこへ向かって一つずつ実践していく。描いた時点では手段がなくても構いません。目的が決まっていれば、必要なものに気づけるようになります。同じ人に会っても、同じ記事を読んでも、拾える情報が変わります。
逆に、今できることだけを積み上げていると、目の前を通り過ぎた機会に気づけません。何を成し遂げたいのかが決まっていないと、それが必要なものかどうか判断できないからです。
自社を教材にして考える時間をつくる
もうひとつ、研修を受けて感じたことがあります。自分の会社そのものを教材にして考える時間は、思っている以上に少ないということです。
経営者は日々、目の前の判断を続けています。資金繰り、人の問題、取引先への対応。どれも必要な仕事ですが、これらはすべて今の延長線上の話です。5年後、10年後に何を残しているのかを考える時間は、意識してつくらないと永久に来ません。
そして、一人で考えても遠くまでは行けません。自分たちの常識の中に閉じこもらず、異なる人や企業と出会い、社会を知り、そこから未来をつくっていく。研修の中でも、この点が繰り返し語られていました。
5年後、御社は何を残していたいですか。今できることの話ではなく、そこから始める時間をつくりたい方は、まず60分、御社の話を聞かせてください。
貴重な学びをいただいた泉先生、そして自社の未来と社会の未来を一緒に考える機会をくださっている経営実践研究会の皆さまに、あらためて御礼申し上げます。

