前職の同期と、20年以上ぶりに話しました。懐かしい話になるかと思っていたら、気づけばほとんど経営の話になっていました。
その方は現在、茨城県で薬局を経営しながら、介護施設、グループホーム、小規模多機能、ケアプランセンターと、地域に必要な事業を複数展開されています。話を聞きながら、これからの地域企業のひとつのあり方だと感じました。
本稿では、その会話から見えた「一店舗への依存から抜ける経営」について書きます。薬局に限らず、特定の取引先や拠点に売上が集中している会社に共通する話です。
一店舗への依存が、なぜリスクになるのか
調剤薬局の経営は、順風満帆だったわけではありません。門前の医療機関との関係が変われば、処方箋の枚数はそのまま影響を受けます。自社の努力とは関係のないところで、売上の前提が動く。
この構造は、薬局に固有のものではありません。売上の大半を1社の取引先に頼っている製造業、1つの元請に依存している建設業も同じ形です。相手の方針が変わった瞬間に、こちらの計画が意味を失います。
その方は、この依存にリスクを感じて介護事業へ展開されました。危機が来てから動いたのではなく、来る前に動いています。ここが早かった。
「儲かりそうだから」ではなく「地域で困っていること」から選ぶ
話を聞いていて最も印象に残ったのは、事業の選び方でした。
儲かりそうだから事業を増やすのではなく、地域で困っていることに対して必要な事業をつくる。この順番になっています。
多角化が失敗するとき、たいてい原因は逆の順番です。市場が伸びているから、利益率が高いからという理由で参入し、既存事業とのつながりがないまま人と資金が分散する。本業まで薄くなって終わります。
一方、目の前の顧客が困っていることから始めた事業は、既存の顧客基盤と信頼をそのまま使えます。薬を渡していた相手が、介護を必要とする段階に進む。同じ人を、より長く支えられるようになる。多角化というより、支える範囲を広げていると言ったほうが近い。
強い会社は、今儲かっているものを守る会社ではない
現在はさらに、医療依存度の高い方も支えられる看護小規模多機能への展開を準備されているとのことでした。
ここに、強い会社の条件が出ていると思います。今儲かっているものを守る会社ではなく、これから困る人を見つけて、先に準備する会社。
守りに入った会社は、収益が落ち始めてから次を探します。そのときにはもう、投資に回せる資金も、新しいことに動ける人の余力も残っていません。準備は、余裕があるうちにしかできません。
高齢化が進むと、単独の事業では解けなくなる
高齢化が進めば、薬だけでは解決できない問題が増えます。介護だけでも解決できません。
医療、介護、住まい、生活。これらを地域の中でつなげていく必要があります。制度上は別々の事業でも、そこで暮らしている一人の生活としては地続きです。つなげられる事業者がいる地域と、いない地域では、住む人にとっての安心がまったく違います。
これは社会的な意義の話であると同時に、経営としても合理的です。つながっている事業は、顧客をお互いに紹介し合います。1つの入口から、長い関係が生まれます。
50名を超えるあたりで、必ず出てくる課題
事業が増え、組織が50名規模になってくると、別の課題が出てきます。
薬局と介護では、求められる働き方も評価の基準も違います。同じ物差しで測ろうとすると、どちらかが納得しません。かといって別々にすると、今度は事業間の異動や連携がしにくくなります。
さらに、経営者だけが全体を見ている状態では、判断が一人に集中します。事業が2つのうちは回りますが、4つ、5つになると必ず詰まります。幹部や管理職が育つ仕組みと、それぞれの事業の役割を整理する設計が、この段階で必要になります。
新しい施設をつくる局面では、財務計画も要ります。介護施設の開設は投資額が大きく、回収も長い。今の資金繰りとどう両立させるかを、先に数字で置いておく必要があります。
「良いサービスをしていれば伝わる」は成り立たなくなった
会話の中で、その場で一緒に検索してみたのが面白い体験でした。
在宅、高齢者、地域名。患者さんやご家族が実際に打つ言葉に合わせて情報を整えていけば、Google検索だけでなく、これから増えていくAI検索でも選ばれる可能性があります。逆に整えていなければ、どれだけ良い仕事をしていても候補に入りません。
良いサービスをしていれば自然と伝わる、というのは、もう成り立たなくなっています。良いものをつくることと、必要な人に見つけてもらうこと。両方がそろって、はじめて地域に価値が届きます。
想いを、続く仕組みに変える
地域を良くしたいという想いがあっても、経営が続かなければ、その支援も続きません。
財務、人、マーケティング。この3つを整えて、地域に必要な会社が長く残る状態をつくる。薬局や介護施設のように、地域の暮らしに直接つながっている事業ほど、ここが重要になります。事業者がいなくなれば、困るのはその地域に住んでいる人だからです。
一店舗、一取引先への依存が気になっている。事業は増えたが、判断が自分に集中している。良い仕事をしているのに知られていない。そう感じている経営者の方は、まず60分、御社の話を聞かせてください。

