数年前、あるクリニックの院長先生からご相談をいただきました。コロナ前までは順調に増えていた患者さんが、コロナを境に減少していました。
「どうすれば患者さんに戻ってきてもらえるのか分からない」「この状態が続けば、人員整理も考えなければならない」「このままでは、クリニックを続けられなくなるかもしれない」。そんな危機感を抱えておられました。
結論から書くと、2025年度には患者数が回復し、利益が出る状態まで戻りました。本稿では、そこまでに何を、どの順番でやったのかを書きます。集患の施策リストはすでに世の中にたくさんありますが、順番について書かれたものをあまり見かけないためです。
最初にやったのは、広告ではなかった
患者さんが減っているとき、まず広告を増やしたくなります。しかし最初に着手したのは、クリニックの数字と患者さんの動き、提供している医療、スタッフの役割を整理することでした。そのうえで経営診断と改善計画をつくっています。
理由は単純です。どこで患者さんが離れているのかが分からないまま広告を出すと、穴の空いたバケツに水を足すことになるからです。新規で来ても再来院につながらないのか、そもそも認知されていないのか、それとも予約の段階で離脱しているのか。ここが分かれば、打つべき手はかなり絞れます。
実行したのは5つ。ただし順番があった
診断のあとに実行したのは、次の5つです。
- ホームページを見直す
- 院長先生やスタッフの顔が見える発信に変える
- GoogleやSNSを活用する
- 患者さんの健康につながる検査や再来院の案内を見直す
- 院長先生だけでなく、スタッフも集患に関われるようにする
並べると当たり前に見えますが、着手した順番に意味があります。
先に受け皿を直しました。ホームページと、来院された方への案内です。ここが整っていない状態でGoogleやSNSに力を入れると、せっかく興味を持った方が予約の手前で離れます。広告費が最も無駄になるのがこのパターンです。
受け皿を直してから、外向きの発信に進みました。そして最後に、それをスタッフも回せる形にしています。順番を逆にすると、院長先生だけが忙しくなって続きません。
いちばん抵抗があったのは「顔を出すこと」
この中で院長先生が最も抵抗を示されたのが、顔を出すことでした。
しかし医療は、人と人とのサービスです。患者さんは設備だけで医療機関を選ぶわけではありません。どんな先生が診てくれるのか。どんなスタッフがいるのか。そこに安心を感じて、初めて予約という行動につながります。
ホームページを刷新してから、少しずつ患者さんが増え始めました。設備や診療内容の説明を増やしたからではなく、誰がやっているクリニックなのかが伝わるようになったからだと考えています。
効いたのは、スタッフが自分で動き出したこと
数字より大きかったのは、スタッフの意識が変わったことでした。
SNSの発信や患者さんへの案内を、院長先生一人ではなく、スタッフが自分たちで準備し、実行する流れが生まれました。ここが生まれるかどうかで、その後が変わります。院長先生が全部やっている限り、診療が立て込めば発信は止まり、止まればまた患者数が落ちるからです。
院長先生がやるべきは、発信そのものではなく、誰が何を担当し、どこまで判断してよいかを決めることでした。
患者数が戻り、利益が出る状態へ
2025年度には、患者数が回復し、利益も出る状態になりました。院長先生からは、次の言葉をいただいています。
「何もしなければ、今もそのままだったかもしれない」「黒字になったことは大きい。希望になった」
うまくいった理由は、順番だった
売上が下がったとき、社長や院長が一人で頑張っても長続きしません。今回の進め方を整理すると、次の4段階です。
- 何をするのか決める
- チームで動ける形にする
- 数字を見ながら修正する
- うまくいった方法を仕組みにする
4段階目まで進めて、はじめて成果が定着します。ここを飛ばすと、担当者が変わった瞬間に元へ戻ります。
次の課題は「忙しくなった後の経営」
このクリニックの次の課題は、増えた患者さんをどう受け止めるかです。
患者さんが増えれば、待ち時間も説明業務も増えます。ここで院長先生がさらに頑張ると、今度は先生自身が疲弊します。集患がうまくいった医院が、一年後に疲れ切っているという話は珍しくありません。
そこで次の段階として、AIを使った仕組みづくりに入っています。患者さんへの説明を動画や資料にする。SNS投稿の下書きを自動化する。スタッフが使える業務手順をつくる。院長先生の判断や説明を、組織の知識として残す。検索がAIに置き換わりつつある流れに合わせて、見つけてもらう入口も整える。
AIは派手な魔法ではありません。院長先生の頭の中にある知識を、スタッフも使える形に変えるための道具です。
集客を増やして終わりではなく、増えた患者さんを無理なく受け入れられる仕組みまでつくる。売上を増やすことだけが良い経営ではありません。院長先生も、スタッフも、患者さんも安心できる状態をつくって、はじめて続く経営になります。
本稿の掲載にあたり、快くご許諾くださった院長先生に御礼申し上げます。なお本稿は個別の支援事例であり、同様の成果を保証するものではありません。

