人手不足を理由に自動化を検討する会社が増えています。ただ、その検討が「何人減らせるか」から始まると、たいてい途中で止まります。現場が反対するからです。判断の出発点を変える必要があります。
先週末、経営実践研究会の視察研修で、産業用ロボットを手がける株式会社HCI様を訪問しました。配膳ロボットが動き、ガラスの向こうでロボットが調理をする。工場では産業用ロボットが大きな機械を正確に動かしている。未来の話だと思っていたことが、もう目の前で動いていました。
本稿では、中小企業が自動化投資をどう判断すればよいかを、4つの視点で整理します。
深夜と休日に、仕事が寄っていく構造
私が支援している建設会社の社長から、こんな相談を受けたことがあります。
「昼間はお客様がいるので工事ができない。だから、土日や深夜に工事をすることが多い」「社員に負担をかけてしまい、生活の質が下がっている」
会社として仕事は受けたい。お客様にも迷惑をかけたくない。けれど、そのために社員が家族との時間や睡眠を削り続ける経営は、長くは続きません。
この構造には、経営者が見落としがちなコストが乗っています。労働基準法では、法定時間外労働に25%以上、深夜労働(22時から翌5時)に25%以上、法定休日労働に35%以上の割増賃金が必要です。時間外と深夜が重なれば50%以上になります。つまり同じ作業でも、深夜や休日に寄せた瞬間に人件費は1.25倍から1.5倍に膨らみます。
しかも膨らんでいるのは金額だけではありません。睡眠と家族の時間が削られ、離職につながる。採用してもまた同じ働き方が待っているので、定着しない。ここまでが実際のコストです。
視点1 どの作業を機械に渡すか
切り分けの原則は単純です。人にしかできない仕事は人がする。同じ動きを繰り返す仕事や、危険でつらい仕事は機械に手伝ってもらう。
具体的には、次の順で棚卸しをします。
- 毎回まったく同じ手順で、判断が要らない作業
- 深夜・休日に寄せざるを得ない作業
- けが・事故のリスクがある作業
- 人がやっても品質が安定しない作業
逆に、お客様と向き合う仕事、判断が要る仕事、その場で工夫が必要な仕事は残します。自動化の目的は、人をここに集中させることだからです。
視点2 投資回収をどう計算するか
「いくら投資すれば回収できるのか」。ここが決まらないと前に進みません。計算の骨格はこうです。
まず年間の効果額を出します。削減できる時間数に、その時間の人件費単価を掛ける。このとき単価は額面ではなく、社会保険料の会社負担を含めた金額で見ます。実務上は額面の1.15倍から1.2倍程度が目安です。深夜や休日に発生していた時間なら、割増分も乗せます。
次に投資額を出します。機械本体だけでなく、設置工事、既存設備の改修、教育の時間まで含めます。ここを本体価格だけで見積もると、後から必ず膨らみます。
投資額を年間効果額で割れば、回収年数が出ます。設備の耐用年数より短ければ、投資として成立します。
ここに2つ足すと、判断の精度が上がります。ひとつは補助金です。ものづくり補助金や省力化投資補助金など、自動化はもともと補助対象になりやすい領域で、採択されれば実質の投資額が下がり、回収年数も短くなります。もうひとつは離職の回避です。一人退職すると、採用広告費、面接の時間、教育期間中の生産性低下まで含めて相応の損失が出ます。働き方が改善して離職が減るなら、それも効果額に含めて構いません。
視点3 現場に受け入れてもらえるか
数字が合っても、現場が動かなければ投資は死にます。そして現場が反対する理由は、たいてい性能ではありません。「自分の仕事が要らなくなるのではないか」という不安です。
だから最初に伝える順番が重要になります。人を減らすためではなく、深夜と休日の仕事を減らすために入れる。空いた時間で何をしてほしいのかを、先に言葉にしておく。この説明を後回しにすると、導入後に反発が出ます。
進め方も、いきなり全面導入ではなく、いちばん負担の重い工程ひとつから始めるほうが確実です。効果が目に見えれば、次は現場のほうから提案が出てきます。
視点4 技術と現場と数字をつなぐ人がいるか
中小企業の社長が、どの作業を自動化できるのか、いくら投資すれば回収できるのか、現場に受け入れてもらえるのかを、自社だけで考えるのは簡単ではありません。技術のことは技術者に聞くしかなく、しかし技術者は自社の資金繰りを知りません。
私はロボットをつくることはできません。しかし、困っている現場と、解決できる技術の間に立ち、両者の言葉を翻訳することはできます。現場の困りごとを聞き、数字で投資効果を確認し、技術を持つ企業につなぐ。社外CFOとして果たしたいのは、この役割です。
良い技術があっても、必要な会社に届かなければ社会は変わりません。現場に困りごとがあっても、解決方法を知らなければ、社員の我慢が続いてしまいます。
人手不足を「人がもっと頑張る」で乗り越えない
ロボットを入れる目的は、人件費を減らすことではありません。深夜や休日の仕事を減らす。危険な作業から社員を守る。少ない人数でも現場を回せるようにする。人が、お客様や仲間と向き合う仕事に集中する。こうして働く人の暮らしの質を上げることに、本当の価値があります。
人手不足を「人がもっと頑張る」で乗り越えるのではなく、仕組みと技術で乗り越えていく。判断の出発点をそこに置けば、自動化の検討は最後まで進みます。
貴重な学びと体験の機会をくださった株式会社HCIの皆さま、そして経営実践研究会の皆さまに、あらためて御礼申し上げます。

