「うちは経理がしっかりしているので、大丈夫です」
社外CFOの話をすると、年商10億を超える会社の社長からよく返ってくる言葉です。そして多くの場合、その認識は半分正しく、半分は危うい。
経理は機能している。決算も遅れない。試算表も毎月上がってくる。それでも「財務」というポジションが空席のままという会社が、この規模帯には非常に多いからです。この記事では、経理・財務・CFOの役割の境界線を引き直します。
経理と財務は、別の職能である
同じ「お金を扱う仕事」として一括りにされがちですが、この2つは向いている方向が逆です。
| 経理 | 財務 | CFO | |
|---|---|---|---|
| 時間軸 | 過去 | 未来 | 未来の分岐点 |
| 仕事の性質 | 正確に記録する | お金を調達し、配分する | 財務の視点で経営判断に関与する |
| 主な相手 | 社内・税務署 | 銀行・投資家 | 社長・取締役会 |
| 評価される軸 | 正確さと期限 | 調達条件と資金効率 | 意思決定の質 |
経理が優秀であることと、財務機能があることは別問題です。むしろ経理が優秀な会社ほど「数字まわりは問題ない」と認識され、財務の空席が発見されにくい。
顧問税理士がいるから大丈夫、という認識も同じ構造です。税理士の職責は適正な申告であって、5年後の設備投資をどう調達するかの設計ではありません。役割が違うだけで、優劣の話ではない。
財務が空席の会社で、実際に起きていること
空席のまま何年も回ってしまうのは、日常業務では困らないからです。問題が表面化するのは、決まって金額の桁が変わる局面です。
- 銀行との関係が「言われた資料を出す」で止まっている——条件を交渉する関係になっていない。金利も期間も、提示されたものを受けている
- 大型投資の判断が勘になる——数億円の設備投資で、回収シナリオを複数パターン作って比較する担当者がいない
- 調達手段を組み合わせられない——補助金・出資・借入にはそれぞれ制約と順序があり、組み合わせ方で調達総額が変わる。単発では最適化できない
- 承継の局面で、株価が跳ねてから気づく——業績が良い年ほど自社株評価は上がる。対策には数年の助走が要る
- 賃上げの原資を設計できない——上げたいが、いくらまでなら持続可能かの根拠が出せない
いずれも経理の守備範囲ではありません。そして、こうした局面は数年に一度しか来ないため、そのために常勤の財務責任者を採用するのは、規模によっては現実的でない。この隙間に社外CFOという選択肢があります。
社外CFOが「やらないこと」を先に決める
ここが最も重要な部分です。当社が社外CFO契約を結ぶとき、契約書とは別に補足説明書をつくり、業務範囲に含まれないものを先に明文化します。
| 含まれない業務 | 具体例 |
|---|---|
| 日常経理 | 仕訳入力、記帳代行、請求書発行、入出金管理、経費精算 |
| 税務申告 | 申告書の作成・提出、税務調査対応、年末調整 |
| 給与計算・労務 | 給与計算、社会保険・労働保険の手続き、源泉徴収事務 |
| 決算の実務作業 | 決算整理仕訳の起票、財務諸表の作成実務 |
| 監査対応の実務 | 資料提出・質問対応(※監査法人の選定助言は範囲内) |
| 会計システムの運用 | データ入力、マスタ管理(※ソフト選定の助言は範囲内) |
なぜ、できることではなく、やらないことを先に書くのか。役割の境界が曖昧な契約は、必ず便利屋化するからです。
月次の仕訳が遅れれば「ついでに見てほしい」と言われ、年末調整の時期には「これも」となる。そうやって手が埋まると、本来やるべき——銀行との条件交渉や、5年後の投資計画の設計——に時間が使えなくなる。社外CFOを雇って一番もったいない失敗は、高い時給で経理の実務を代行させてしまうことです。
だから、これらの業務は社内の担当者か顧問税理士が担う前提で設計します。もし社内にその体制がなければ、体制を作るところから助言しますが、実務そのものは引き受けません。
では、社外CFOは何をするのか
逆に、契約で明示的に引き受けているのは次の4つです。
- 財務管理体制の構築——PL・BS・CFの管理フレーム設計、KPI設計、月次レポートの様式づくり。「何を見て意思決定するか」を決める仕事
- 金融機関との折衝支援——融資交渉への同席と資料準備。社長を一人で銀行に行かせない
- 経営会議への参加——取締役会・経営会議で財務的見地から発言する。議事録を後で読むのではなく、判断の場にいる
- 資金調達戦略の立案——出資・借入・補助金を組み合わせた調達設計と、その継続的なアップデート
共通しているのは、どれも「決める場」に関わる仕事だという点です。作業を代行するのではなく、判断の精度を上げる。だから常駐は必要なく、月に数回の関与で成立します。
そして最終的な意思決定と、その結果の責任は経営者にあります。社外CFOは判断を支える立場であって、代わりに決める立場ではありません。ここを曖昧にしないことも、契約書に明記しています。
常勤CFOを採用する場合との比較
「いずれ財務責任者を採用したい」という相談もよく受けます。結論から言えば、採用できるなら採用したほうがいい。常勤にしかできない領域は確実にあります。
ただし現実には、銀行交渉と資本政策と管理会計を一人でこなせる人材の採用市場は競争が激しく、中堅規模の会社が希望条件で採れるとは限りません。採用できたとしても、その人が力を発揮するには、経営陣との信頼関係の構築に時間がかかります。
現実的な使い分けはこうなります。
- 社外CFOが向く——財務課題が「局面」で発生する(投資・調達・承継・再編)。今は常勤を置くほどの継続業務量がない。外の視点と他社事例が欲しい
- 常勤が向く——日々の意思決定に財務判断が常時必要。管理会計を社内に根づかせる段階。上場準備など専任が要る局面
採用までの数年を社外CFOで橋渡しし、体制が整ったら引き継ぐ——という設計も普通にあります。むしろ、後任が育つ形を作るのが良い関与だと考えています。
「財務が空席」かどうかのチェックリスト
経理は機能しているのに財務が空席の会社には、共通の兆候があります。
- 銀行との面談に、社長が一人で行っている
- 借入の金利・期間・条件を、他行と比較して交渉したことがない
- 3年後・5年後の資金計画が、数字の形で存在しない
- 設備投資の可否を、回収シミュレーションではなく感覚で決めている
- 自社株の評価額を把握していない
- 部門別・製品別の採算が見えていない
- 試算表は毎月出るが、それを見て打ち手が変わったことがない
3つ以上当てはまるなら、経理の問題ではなく財務の空席です。最後の項目——数字は出ているが、それで行動が変わらない——が一番多く、そして一番もったいない状態です。
まとめ——足りないのは人手ではなく、判断を支える機能
「うちは経理がいるから」で止まっている会社に足りないのは、作業をする人手ではありません。桁の大きい決断をするときに、隣で数字を読む機能です。
そしてその決断は、たいてい予告なくやってきます。大口の設備投資、想定より早い承継の話、取引先の再編。そのとき初めて探し始めるより、平時から関係を作っておくほうが、確実に条件は良くなります。
役割分担をどう設計するか、自社にどちらが必要か——現状の数字を見ながら整理したい方は、初回の無料相談でお聞かせください。
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この記事を書いた人
矢野誠(やの・まこと)|株式会社フエル代表・社外CFO。中小企業診断士・事業承継士。製薬大手で20年、財務管理の実務を経て独立。大阪を拠点に、年商10〜50億円規模の製造業・建設業・医業を中心に、資金調達戦略・事業承継・人事評価制度構築を支援。「会社の未来予想図を、数字で描く社外CFO」

